■熱対策材料は、加工された時点で初めて部品になる
材料メーカーから供給される放熱シート、グラファイト、金属箔、絶縁フィルム、粘着材は、そのままでは完成部品ではない。
製品内部へ組み込むためには、
・発熱部品に合う外形
・ネジやコネクターを避ける穴
・絶縁距離を確保する切り欠き
・貼り付け位置を決める基準形状
・自動機が吸着できる面
・剥離しやすいキャリア構成 などが必要になる。
つまり熱対策材料は、加工によって、材料から機能部品へ変わる。
このとき、単に図面どおりの形状へ加工されていればよいわけではない。
加工後も、
・平らである
・割れていない
・伸びていない
・層がズレていない
・気泡がない
・異物がない
・必要な接触面積を確保している ことが求められる。
熱対策材料の加工では、形状精度と界面品質を同時に成立させる必要がある。
■0.1mmの浮きは、本当に小さな誤差なのか
機械部品の寸法として見れば、0.1mmは小さな差に見えることがある。
しかし熱対策において、0.1mmの浮きは決して小さくない。
例えば、発熱部品と放熱シートの間に0.1mmの隙間が生じたとする。
その隙間に存在するのは、多くの場合、空気である。
空気の熱伝導率は、一般的な金属、グラファイト、放熱シート、熱伝導性接着材と比べて極めて低い。
そのため、わずかな空気層であっても、熱の流れを妨げる。
重要なのは、隙間の厚みだけではない。
浮きが発生すると、
・実際の接触面積が減る
・熱が接触部分へ集中する
・局所的な熱流束が高くなる
・ホットスポットが残る
・接触部分と非接触部分で温度差が生まれる という問題が起こる。
部材の中央が0.1mm浮けば、熱は浮いている部分を避け、周囲の接触部分を通ろうとする。
結果として、熱の流れは遠回りになる。
つまり0.1mmの浮きは、
0.1mm分だけ熱経路が長くなる問題ではない。
熱が通れる面積そのものが減る問題なのである。
■空気層が入ると、界面も増える
気泡や浮きが問題になる理由は、空気の熱伝導率が低いからだけではない。
界面が増えることも大きな要因である。
本来、二つの材料が密着していれば、熱は、
発熱体
↓
TIM
↓
放熱板 という経路を流れる。
しかしTIMと放熱板の間に空気層が入ると、
TIM
↓
空気
↓
放熱板 という構造になる。
このとき新たに、
・TIMと空気の界面
・空気と放熱板の界面が加わる。
つまり空気層が一つ入るだけで、熱が通過しなければならない界面が増える。
界面では、表面の微細な凹凸や接触不足によって熱抵抗が生じる。
そのため気泡は、
・熱を伝えにくい空気を含む
・接触面積を減らす
・界面を増やす
という複数の理由によって、熱性能を低下させる。
■目に見えない微小な凹凸も接触面積を減らす
一見平らに見える金属板、フィルム、放熱シートにも、顕微鏡レベルでは凹凸がある。
二つの材料を重ねても、実際には全面が接触しているわけではない。
微細な凸部同士が接触し、その間には小さな隙間が残る。
柔らかいTIMや粘着材は、この凹凸へ追従し、空間を埋める役割を持つ。
しかし、
・圧着圧力が不足している
・材料が硬すぎる
・表面に異物がある
・厚みが不足している
・材料が反っている
場合には、表面凹凸へ十分に追従できない。
その結果、見た目では密着していても、実接触面積が不足する。
熱対策におけるラミネート加工では、
材料を貼り付けることではなく、
実際に熱が流れる接触点を増やすことが重要になる。
■気泡はどのように発生するのか
ラミネート時の気泡は、偶然発生するわけではない。
発生する理由がある。
代表的な原因には、次のようなものがある。
・貼り合わせ速度が速すぎる
・圧着圧力が不足している
・材料の端部が先に接触する
・基材に反りがある
・貼り合わせ面に異物がある
・粘着材が表面凹凸へ追従できない
・材料幅に対してローラー幅や圧力が適切でない
・貼り合わせ時の張力差が大きい
・材料温度が低く粘着材が硬い
例えば、広い面積の部材を一度に全面接触させると、中央の空気が逃げる経路を失うことがある。
そのため実際の加工では、
・一端から順番に貼る
・ローラーで空気を外側へ押し出す
・圧着速度を調整する
・材料温度を安定させる
・必要に応じて真空環境を使う といった工夫が必要になる。
気泡対策は、完成品を検査して取り除くだけでは不十分である。
気泡が発生しにくい工程を最初から作ることが重要になる。
■小さな気泡でも、位置によって影響は変わる
同じ大きさの気泡でも、どこに存在するかによって影響は異なる。
熱源から離れた端部にある気泡。
熱源の真上にある気泡。
冷却板への熱の出口にある気泡。
これらは、同じ大きさでも熱性能への影響が違う。
特にホットスポット直上の気泡は、局所温度を高くする可能性がある。
また熱拡散材の中央部に気泡があると、熱が周囲へ広がる経路を妨げることがある。
そのため気泡管理では、
・気泡の個数
・気泡の直径
・気泡の総面積 だけでなく、
どこに気泡があるかも重要になる。
■シワは厚みと圧力を局所的に変える
薄膜フィルム、グラファイト、金属箔は、ラミネート時の張力や送り速度が合わないとシワが発生する。
シワがある部分では、
・材料が重なる
・局所的に厚くなる
・周囲が浮く
・圧着圧力が偏る
・粘着層の厚みが変わる という状態が起きる。
例えばシワの頂点だけが冷却板へ強く接触し、その周囲が浮けば、接触面積は大幅に減る。
さらに、硬いシワが突起のように働けば、相手部品へ局所的な応力を与えることもある。
つまりシワは、外観不良ではなく、熱抵抗と応力を同時に発生させる機能不良である。
■異物は、非常に小さなスペーサーになる
ラミネート面へ、
・切粉
・金属粉
・グラファイト粉
・粘着材のカス
・フィルム片
・繊維
・ホコリ などが入り込むと、材料同士の間に段差が生まれる。
異物自体は非常に小さくても、その周囲まで材料を浮かせることがある。
つまり異物は、微小なスペーサーとして働く。
厚さ30μmの異物が一つ挟まった場合、異物の真上だけでなく、その周囲数mmが緩やかに浮くことも考えられる。
また導電性の異物であれば、
・絶縁不良
・ショート
・漏電
・ノイズ の原因になる可能性もある。
熱対策部材では、異物管理は外観品質のためだけに行うのではない。
熱接触と電気安全性を維持するために必要になる。
■クリーン環境は熱性能にも関係する
クリーン環境というと、光学部品や半導体部品のためのものと思われることがある。
しかし熱対策部材でも、異物による浮きや接触不良を防ぐため、加工環境は重要である。
特に、
・大面積のラミネート
・薄い粘着材
・柔らかいTIM
・高精度な絶縁部材
・透明フィルム
・医療用途部材 では、小さな異物が製品機能へ影響する。
設備の清掃だけでなく、
・材料開封方法
・作業者の衣服
・搬送経路
・カスの回収
・静電気対策
・材料の露出時間 まで考える必要がある。
■打ち抜き加工は、熱が流れる形を作る工程
打ち抜き加工は、材料を図面形状へ切り出す工程である。
しかし熱対策部材では、外形によって熱の流れ方が変わる。
例えば、
・熱源を覆う面積
・熱を広げる方向
・冷却板へ接触する面積
・穴や切り欠きによる熱経路
・細い連結部の幅
が、打ち抜き形状によって決まる。
外形が小さすぎれば、発熱部を十分に覆えない。
穴が熱源へ近すぎれば、有効な熱拡散面積が減る。
細い橋状部分があれば、熱が通過できる断面積が小さくなる。
つまり打ち抜き加工は、
材料を製品に入る形へ切る工程ではなく、
熱が流れる通路を作る工程なのである。
■金型クリアランスとバリ
打ち抜き加工では、上刃と下刃、またはパンチとダイの間に隙間がある。
この隙間を一般にクリアランスと呼ぶ。
クリアランスが適切でなければ、
・バリが大きくなる
・切断面が荒れる
・材料が引き伸ばされる
・端面が変形する
・層間剥離が起きる 可能性がある。
金属箔の場合、クリアランスが大きすぎると材料がせん断される前に引き込まれ、バリが発生しやすくなる。
一方、狭すぎると加工荷重が上がり、刃物の摩耗や欠けにつながることがある。
適切なクリアランスは、
・材料種類
・材料厚み
・硬さ
・積層構成
・粘着層の有無 によって異なる。
つまり金型設計では、単に外形寸法だけでなく、
切断後の端面状態まで考える必要がある。
■数十μmのバリが部材全体を浮かせる
バリは端面に発生するため、端だけの問題だと思われやすい。
しかし熱対策部材では、わずかなバリが部材全体の接触状態を変える。
例えば、金属箔端面に50μmのバリが発生したとする。
そのバリが冷却板や筐体へ先に接触すれば、バリを支点として部材が傾くことがある。
すると、
・端部だけが強く接触する
・中央部が浮く
・反対側の端部も接触しない
・圧着圧力が偏る 可能性がある。
つまり50μmのバリが、50μmの範囲だけに影響するとは限らない。
バリを起点として、数mmから数十mmの範囲で接触不良が生じることも考えられる。
■導電性材料のバリは絶縁性も壊す
熱拡散材には、
・銅箔
・アルミ箔
・グラファイト
・導電性シート などが使われる。
これらは熱を伝えやすい一方、電気も通す。
そのためバリや端面の突起が、
・絶縁フィルムを突き破る
・回路へ近づく
・他の金属部品へ接触する
・導電粉を発生させる 可能性がある。
熱性能を上げるために導電性材料を使った結果、絶縁不良を起こしては意味がない。
つまり導電性熱対策部材では、
端面品質が熱と電気の両方を決める。
■刃物の摩耗で量産中に品質は変わる
試作時にきれいに加工できても、量産で同じ状態が続くとは限らない。
打ち抜きを繰り返すと、刃物は摩耗する。
摩耗が進むと、
・バリが増える
・切断面が荒れる
・粘着材の糸引きが増える
・切り残しが発生する
・寸法が変化する
・加工荷重が増える 可能性がある。
重要なのは、刃物が完全に切れなくなってから交換するのでは遅いということである。
熱性能へ影響するバリ高さや端面状態が許容値を超える前に、
・加工ショット数
・寸法変化
・バリ高さ
・切断荷重
・外観状態
を見ながら、交換やメンテナンスを行う必要がある。
量産品質とは、新品の金型で作った一個目の品質ではない。
金型が摩耗していく過程でも維持できる品質である。
■粘着材はきれいに切れにくい
熱対策部材には、粘着材が積層されることが多い。
しかし粘着材は、金属や硬いフィルムのように、単純に切断できる材料ではない。
粘着材には、
・刃物へ付着する
・引き伸ばされる
・糸を引く
・端部からはみ出す
・切断後に戻る
・温度によって硬さが変わる という特性がある。
刃物へ付着した粘着材が蓄積すると、次の製品へ転写されたり、切断精度を低下させたりする。
また加工時には切れているように見えても、粘着材だけが細くつながっている場合がある。
この状態で部材を剥離すると、
・製品が変形する
・キャリアが持ち上がる
・粘着材が伸びる
・カスが製品へ付着する 可能性がある。
粘着材を含む熱対策部材では、基材を切る条件ではなく、
積層体全体を安定して分離する条件が必要になる。
■材料温度で打ち抜き状態が変わる
粘着材、発泡体、樹脂フィルムは、温度によって硬さや伸びが変わる。
温度が高いと、
・粘着材が柔らかくなる
・糸引きが増える
・刃物へ付着しやすくなる
・外形が変形しやすくなる ことがある。
温度が低いと、
・材料が硬くなる
・割れや欠けが増える
・接着界面が剥がれやすくなる 可能性がある。
そのため同じ金型、同じ材料でも、夏と冬、朝と夜で加工状態が変わることがある。
熱対策材料の打ち抜きでは、
加工室の温湿度
材料の保管状態
加工前の材料温度 も工程条件の一部である。
■グラファイト加工の難しさ
グラファイトシートは、面方向へ熱を広げる材料として使われる。
一方で、加工時には独特の難しさがある。
グラファイトは、
・脆い
・欠けやすい
・粉が出やすい
・層状に剥がれやすい
・折れやシワが残りやすい
・薄くなるほど扱いにくい という性質を持つ。
打ち抜き時に端面が欠けると、設計した外形より熱拡散面積が小さくなる。
グラファイト粉が発生すれば、異物や導電性汚染の原因になる。
また、加工時に微細な亀裂が入ると、外観では分かりにくくても、熱を広げる連続性が損なわれる可能性がある。
グラファイト加工では、
・刃物形状
・加工圧力
・支持フィルム
・粘着層構成
・カス取り方法
・搬送張力 を適切に設計する必要がある。
■銅箔加工の難しさ
銅は高い熱伝導性を持ち、熱拡散材や導電部材として使われる。
しかし薄い銅箔は、
・延びやすい
・変形しやすい
・バリが出やすい
・折れ跡が残りやすい
・張力で寸法が変わりやすい という特徴がある。
打ち抜き時に材料が引き伸ばされると、穴位置や外形寸法が変わることがある。
またリール搬送時の張力が強すぎれば、加工前後で長さ方向の寸法が変化する可能性がある。
薄い銅箔では、材料を切るだけでなく、
伸ばさず、曲げず、平らなまま加工すること が重要になる。
■アルミ箔加工の難しさ
アルミ箔は軽量で熱伝導性があり、熱対策用途で使われる。
しかし銅と比較して柔らかく、薄膜では波打ちやすい。
加工中の張力やローラー圧が不均一になると、
・波打ち
・シワ
・端部の伸び
・反り
・バリ が発生する可能性がある。
アルミ箔は、表面処理や酸化皮膜の状態によって粘着性も変わることがある。
そのためラミネートでは、
・表面状態
・粘着材との相性
・圧着条件
・前処理 も確認する必要がある。
■発泡体・柔軟TIMの打ち抜き
発泡体や柔らかいTIMは、段差吸収や圧縮追従のために使われる。
しかし柔らかい材料は、打ち抜き時に圧縮される。
刃物が入る前に材料全体が潰れれば、切断後に形状が戻り、寸法が変わることがある。
また柔らかい材料では、
・切断面が傾く
・端部が潰れる
・厚みが戻らない
・粘着材がはみ出す
・細い形状が変形する ことがある。
図面上では同じ寸法でも、測定時の荷重によって寸法や厚みが異なって見える場合もある。
つまり柔軟材料では、
加工方法
測定方法
使用時の圧縮状態 を一体で考える必要がある。
■セラミック系シートの加工
セラミックフィラーを多く含む熱伝導性シートは、高い熱伝導性や絶縁性を持つ一方、硬く脆い場合がある。
加工条件が合わなければ、
・端面欠け
・微細クラック
・粉落ち
・層間剥離
・穴周辺の割れ が発生することがある。
特に小径穴、細い橋形状、鋭角部では応力が集中しやすい。
材料の熱性能が高くても、加工によって微細クラックが生じれば、機械的信頼性や絶縁性が低下する可能性がある。
■ハーフカットは自動化だけの問題ではない
リール供給では、製品層を切り、剥離フィルムやキャリアを残すハーフカット加工が使われる。
ハーフカットが浅すぎると、
・製品が完全に分離しない
・剥離時に部材が伸びる
・積層位置がズレる
・端部が変形する 可能性がある。
反対に深すぎると、
・キャリアへ傷が入る
・搬送中にキャリアが切れる
・リール張力で破断する
・部材位置が不安定になる 可能性がある。
剥離時に部材が変形すれば、貼り付け位置や接触状態も変わる。
つまりハーフカット精度は、
供給性だけでなく、最終的な熱接触状態にも影響する。
■カス取りが安定しなければ製品も安定しない
打ち抜き後には、製品以外の不要部分を取り除く。
この工程をカス取りと呼ぶことがある。
熱対策材料では、
・細い形状
・小さな穴
・複雑な切り欠き
・柔らかい粘着材
・脆いグラファイト
が含まれるため、カス取りが難しい場合がある。
カス取り時に製品側へ力が加わると、
・形状が伸びる
・部材がキャリア上で動く
・グラファイトが割れる
・粘着面が露出する
・異物が付着する可能性がある。
打ち抜き加工は、刃物で切った瞬間に終わるのではない。
カスを除去し、製品を安定した状態で残すところまでが加工である。
■前半まとめ
打ち抜き加工とは、単に材料を製品に入る形へ切る工程ではない。
熱が流れる通路を作る工程なのである。
バリが浮きを作る。
気泡が界面を増やす。
異物がスペーサーになる。
シワが圧力を偏らせる。
これらはすべて、材料の外側ではなく、熱の経路そのものに起きる問題である。
しかし、熱対策材料の加工はここで終わらない。
材料を正しい形に切り出せても、次の工程がある。
それが、ラミネートである。
複数の材料を貼り合わせ、熱が流れる界面を作る工程。
打ち抜きで作った形が、ラミネートによって初めて機能部品になる。
次回(6-6-2)では、ラミネート加工における界面品質と量産安定性の問題を整理する。
6. 微細加工と熱問題編
6-6-2. 熱対策材料の打ち抜き・ラミネート加工(後半) 〜材料を貼り合わせる工程ではなく、熱が流れる界面を作る工程〜
コラム監修:角本 康司 (オーティス株式会社)
語学留学や商社での企画開発を経て2011年にオーティス株式会社入社。経営企画部を中心に製造・技術部門も兼任し、2018年より代表取締役として事業成長と組織強化に努めている。
※本記事は教育・啓発を目的とした一般的な技術解説であり、特定企業・製品・技術を示すものではありません



