■複数の機能を重ねるほど、部材は複雑になる
一つの熱対策部材には、放熱以外の機能も求められる。
例えば、
・電気を通さない
・製品へ固定する
・段差へ追従する
・振動を吸収する
・電磁ノイズを抑える
・水分や粉塵の侵入を防ぐ
・周辺部品との干渉を避ける といった機能である。
一つの材料だけですべてを満たすことは難しい。
そこで、複数の材料を積層する。
例えば、熱を面方向へ広げるグラファイトに、絶縁フィルムを重ねる。
金属箔に、固定用の粘着材を重ねる。
熱伝導シートに、段差吸収用の発泡体を組み合わせる。
このように材料を組み合わせれば、複数の機能を一つの部材に持たせることができる。
一方で、材料の種類が増えるほど、
・界面が増える
・熱膨張差が増える
・硬さの差が増える
・厚みの管理が複雑になる
・反りや剥離の原因が増える という問題も生まれる。
積層化は、機能を増やす技術である。
同時に、材料同士の動きの違いを管理する技術でもある。
■材料は、温度が変わると伸び縮みする
多くの材料は、温度が上がると膨張し、温度が下がると収縮する。
この温度変化に対する寸法変化の大きさを示す代表的な指標が、線膨張係数である。
温度による長さの変化は、概念的には、
・元の長さ
・温度変化
・材料の線膨張係数 によって決まる。
元の長さが長いほど、寸法変化は大きくなる。
温度差が大きいほど、寸法変化も大きくなる。
そして、材料の線膨張係数が違えば、同じ温度変化を受けても伸びる量は異なる。
金属箔と樹脂フィルム。
グラファイトと粘着材。
セラミック系シートと発泡体。
これらを貼り合わせた場合、それぞれが同じ量だけ伸びるわけではない。
材料単体であれば、比較的自由に伸びることができる。
しかし貼り合わせると、互いの動きを拘束する。
大きく伸びようとする材料を、伸びにくい材料が抑える。
伸びにくい材料は、伸びようとする材料から引っ張られる。
その結果、積層体の内部に応力が生じる。
■反りは、材料同士の力が表面化したものである
異なる材料を貼り合わせた部材が反るのは、必ずしも加工ミスだけが原因ではない。
材料同士の伸び方が違うと、積層体は平らな状態のままでは内部の力を保ちにくくなる。
そこで部材全体が曲がることで、内部の力をつり合わせようとする。
例えば、上側の材料が下側の材料より大きく伸びようとすれば、積層体は一方向へ湾曲する。
温度が下がれば、反対方向へ動くこともある。
これは、二種類の金属の熱膨張差を利用して曲がるバイメタルと似た現象である。
熱対策部材でも、
・金属箔と樹脂フィルム
・グラファイトと絶縁フィルム
・セラミックフィラー系シートと柔軟材
・厚い基材と薄い粘着層
などの組み合わせで、反りが発生する可能性がある。
反りが起こると、
・部材端部が浮く
・自動機で吸着できない
・貼り付け位置がずれる
・圧着圧力が偏る
・実際の接触面積が減る という問題につながる。
つまり反りは、外観上の問題ではない。
熱接触と自動供給の両方を壊す問題なのである。
■非対称な積層構造は反りやすい
積層体の上下が同じような構造であれば、それぞれの材料が発生させる力が打ち消し合う場合がある。
しかし実際の熱対策部材では、
・片面だけに粘着材を設ける
・片側だけに金属箔を重ねる
・必要な場所だけを部分的にラミネートする
・表面だけを絶縁フィルムで覆う といった非対称構造が多い。
非対称構造では、部材の表裏で、
・材料構成
・厚み
・硬さ
・熱膨張
・吸湿性 が異なる。
そのため、温度や湿度の変化を受けると、反りが発生しやすい。
特に注意が必要なのが、剥離フィルム付きの部材である。
剥離フィルムが付いた状態では平らでも、剥離フィルムが部材を拘束しているだけかもしれない。
剥離した瞬間、内部応力が解放され、部材が丸まることがある。
したがって平面性の確認は、
剥離フィルム上で平らかだけではなく、
剥離後も自動機が扱える状態かまで確認する必要がある。
■部分ラミネートでは、機能の境界が応力の境界になる
必要な場所だけに金属箔や放熱材を配置する部分ラミネートは、材料使用量や部材厚みを抑える上で有効である。
しかし、積層されている部分と、されていない部分の境界では、
・厚み
・曲げ剛性
・熱膨張
・応力
・熱の流れ
が急に変わる。
この境界に力が集中すると、
・端部が浮く
・層間剥離が始まる
・フィルムに折れ線が残る
・温度変化後に段差が生じる 可能性がある。
例えば、薄い絶縁フィルムの一部だけへ金属箔を貼ると、金属箔の端部を境に、曲がりやすさが大きく変わる。
巻き取りや剥離時には、この境界部分へ曲げ応力が集中する。
つまり部分ラミネートでは、必要な場所に機能を置くことだけでなく、
その機能が終わる境界をどう設計するかも重要になる。
■厚みと硬さの組み合わせで、部材の動きは変わる
異種材料の反りや変形は、線膨張係数だけでは決まらない。
各層の、
・厚み
・硬さ
・曲げ剛性
・粘着層の柔軟性
・積層順序も影響する。
薄いフィルムは、小さな力でも曲がりやすい。
厚い金属層は、変形しにくい。
柔らかい粘着材は、材料間の動きを吸収しやすい。
硬い接着層は、材料同士を強く拘束する。
例えば、薄い樹脂フィルムへ厚い金属箔を貼れば、積層体の動きは金属側に支配されやすくなる。
反対に、非常に薄い金属箔と厚い発泡体を組み合わせれば、発泡体の圧縮や変形が部材全体の形状へ影響する。
したがって積層設計では、「どの材料を使うか」だけでなく、
どの厚みで、どの順番に、どの硬さの材料を重ねるか
まで考える必要がある。
■完成品に不要でも、工程に必要な形がある
自動化を安定させるために、完成品には残らない形状を一時的に設けることがある。
例えば、
・吸着用タブ
・剥離開始用の余白
・位置認識用マーク
・搬送用の連結部
・支持フレーム
・カス取り用のつなぎ などである。
完成品図面だけを見ると無駄に見える。
しかし、その形状があることで、
・剥離時の変形を抑える
・吸着面を確保する
・搬送姿勢を安定させる
・位置認識を容易にする
・細い形状を保護する ことができる。
つまり量産部材には、製品機能を実現すると、
工程を成立させる形の両方が必要になる。
■粘着材は、固定材であると同時に応力緩和層でもある
粘着材の役割は、部材を製品へ固定することだけではない。
異種材料の間に入り、それぞれの伸び方の違いを吸収する役割も持つ。
柔軟な粘着層であれば、金属と樹脂が異なる量だけ伸びても、粘着層の内部が変形することで応力を緩和できる。
しかし、粘着材が硬すぎれば、材料間の動きを吸収できない。
薄すぎれば、せん断変形によって応力を逃がす余裕が小さくなる。
一方で、柔らかすぎる場合には、
・高温で部材がずれる
・端部から粘着材がはみ出す
・荷重を受け続けると変形する
・位置精度を維持できない 可能性がある。
つまり粘着材には、
・固定する
・表面凹凸へ追従する
・熱膨張差を吸収する
・厚みを維持する
・高温でも位置を保つ
という複数の性能が求められる。
接着力が高い材料を選べば解決する、という単純な問題ではない。
■まとめ(前半)
異種材料を組み合わせることで、熱対策部材は多くの機能を持つ。
しかし材料を重ねるほど、それぞれの「動き方の違い」も重なっていく。
温度で伸びる量が違う。
湿度で膨らむ量が違う。
曲がりやすさが違う。
硬さが違う。
貼り合わせた瞬間は平らでも、温度が変われば反る。
加工時は正確でも、使用中に界面が少しずつずれる。
粘着材は固定材であると同時に、こうした動きの差を吸収する緩衝材でもある。
しかし、粘着材一つで解決できないことも多い。
問題は材料の選定だけではなく、積層順序、厚み、構成の設計そのものにある。
では、その部材が加工工場を出た後、どこで何が起きるのか。
リールに巻かれる。輸送される。剥がされる。吸着される。貼り付けられる。
次回(6-7-2)では、その工程のなかで部材に何が起きるかを整理する。
コラム監修:角本 康司 (オーティス株式会社)
語学留学や商社での企画開発を経て2011年にオーティス株式会社入社。経営企画部を中心に製造・技術部門も兼任し、2018年より代表取締役として事業成長と組織強化に努めている。
※本記事は教育・啓発を目的とした一般的な技術解説であり、特定企業・製品・技術を示すものではありません



