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9-7. 試作条件と量産条件が違う(後編) ― 試作で成功しても、量産で同じ結果が出るとは限らない ―

材料・加工技術

公開日:
9-7. 試作条件と量産条件が違う(後編) ― 試作で成功しても、量産で同じ結果が出るとは限らない ―

前編では、試作にはなかった変動要因を見てきた。
材料ロット。公差。設備摩耗。速度。温湿度。保管。作業者。設備間差。海外移管。輸送。

これらをゼロにすることはできない。
自動化しても、ばらつきは残る。

ならば、ばらつきを前提に設計するしかない。

試作で平均温度70℃。
量産では65℃から85℃まで分布するかもしれない。
顧客仕様が80℃以下なら、平均値が良くても不合格品が出る。

試作で99℃。
仕様上限は100℃。
数字の上では合格だが、量産ばらつきを考えればすぐに超える。

つまり量産で問われるのは、
一個の最高性能ではなく、
何万個作っても仕様を外さないこと である。

後編では、
最悪値と工程能力という見方。
設計マージンが過剰設計ではない理由。
検査で全部は救えないという前提。
最適条件ではなく、安定条件を選ぶという判断。
そして、設計段階から製造を考えるDFMの考え方。

さらに、実際に起きた失敗事例を見ていく。
試作では全面接触したのに、量産で一部が浮いた例。
次の材料ロットで剥離不良になった例。
日本では良好だったのに、海外量産で反りが増えた例。
出荷時は良品だったのに、顧客到着後に貼付できなかった例。

最後に、試作性能を量産性能へ変える仕事について整理する。

目次

■熱評価だけ合格しても量産成立とは言えない

■初期性能と経時性能も違う

■量産では「平均値」より「最悪値」が重要になる

■ばらつきを設計余裕で吸収する

■設計マージンは無駄ではない

■工程能力という考え方

■検査で全部救うことはできない

■後工程で見えなくなる不良は特に注意する

■トレーサビリティも量産では重要になる

■データを残すと工程変化が見える

■量産不良は一つの原因とは限らない

■「全部規格内なのに不良」が起きる理由

■試作で使った加工方法を、そのまま量産へ持ち込めないことがある

■量産工法を早い段階で決める

■試作では加工しやすくても量産ではコストが合わない

■コストダウンで工程を削ると性能が変わることもある

■サプライヤー変更も性能変更になり得る

■失敗例:試作では全面接触、量産では一部が浮く

■失敗例:一つの材料ロットでは問題なし、次ロットで剥離不良

■失敗例:日本では良好、海外量産で反りが増える

■失敗例:出荷時は良品、顧客到着後に貼付できない

■研究者視点:量産とは「ばらつきの科学」である

■現場視点:不良品と良品を並べて差を見る

■試作条件を記録する

■量産条件を「窓」として考える

■最適条件より、安定条件を選ぶ

■DFMの考え方が重要になる

■OTIS視点:試作を作る会社ではなく、試作性能を量産へ移す会社へ

■OTISが早期に関わる意味

■「図面どおり」だけでは量産保証にならない

■OTISでできること

■OTISの専門外

■まとめ:試作成功はゴールではなく、量産設計のスタートである

■熱評価だけ合格しても量産成立とは言えない

熱対策部材なら、まず温度を見る。

しかし量産品では、

絶縁。

防水。

剥離。

耐久性。

寸法。

外観。

も必要になる。

熱性能が良くても、他機能が量産ばらつきで不合格になる可能性がある。

つまり量産評価は複数機能で見る必要がある。

■初期性能と経時性能も違う

量産初期品はすべて良好。

しかし半年後、

粘着材がずれる。

TIMが硬化する。

界面が浮く。

すると熱性能が変わる。

つまり量産成立には、製造直後だけでなく、使用後の状態まで考える必要がある。

■量産では「平均値」より「最悪値」が重要になる

試作では平均温度70℃。

非常に良い。

量産では、

65℃。

70℃。

78℃。

85℃。

と分布するかもしれない。

顧客仕様が80℃以下なら、平均値が良くても不合格品が出る。

つまり量産では、最高性能よりも、最悪条件でも仕様に入ることが重要になる。

■ばらつきを設計余裕で吸収する

例えば仕様上の上限が100℃。

試作で99℃。

「合格した」

と判断する。

しかし量産ばらつきを考えると、すぐに100℃を超える。

つまり試作で仕様ぎりぎりの設計は危険である。

必要なのは、量産ばらつきを吸収する余裕である。

■設計マージンは無駄ではない

高性能化すると、設計値ぎりぎりまで攻めたくなる。

しかし量産では、

材料公差。

設備公差。

環境変化。

劣化。

がある。

そのため一定の安全余裕を持たせる。

これは過剰設計ではなく、量産ばらつきを吸収するための設計である。

■工程能力という考え方

量産では、

平均値が仕様内。

だけではなく、

ばらつきが十分小さいか

を見る。

位置精度。

厚み。

貼付精度。

などについて、工程が安定しているかを確認する。

つまり、良品が作れるかではなく、良品を安定して作り続けられる工程かを見る。

■検査で全部救うことはできない

ばらつきがあるなら全数検査すればよい。

そう考えることもできる。

しかし、

内部気泡。

接触圧力。

微小剥離。

など、完成後に簡単には見えないものもある。

さらに検査工程を増やせば、コストも時間も増える。

そのため重要なのは、検査だけではなく、不良が発生しにくい工程を作ることである。

■後工程で見えなくなる不良は特に注意する

TIMを貼る。

その上にヒートシンクを付ける。

完成後にはTIMが見えない。

つまり貼付不良があっても確認しにくい。

こうした工程では、

貼付前の材料状態。

貼付位置。

圧着条件。

を管理する。

つまり、完成品検査より工程保証の方が重要になる場合がある。

■トレーサビリティも量産では重要になる

不具合が起きた。

どの材料ロットか。

どの設備か。

何月何日に加工したか。

どの条件だったか。

が分かれば原因を追いやすい。

量産では、性能だけでなく、履歴を残すことも重要になる。

■データを残すと工程変化が見える

例えば、

貼付位置。

寸法。

バリ。

剥離力。

を継続的に記録する。

すると、

少しずつ悪化している。

材料ロット変更後に変化した。

特定設備だけ違う。

という傾向が見える。

つまり検査データは合否判定だけではなく、工程を改善する情報になる。

■量産不良は一つの原因とは限らない

温度が高い製品が出た。

調べると、

TIM厚みが少し厚い。

貼付位置も少しずれている。

圧着圧力も少し低い。

それぞれ単独では仕様内。

しかし三つが重なって温度が高くなった。

こうしたことがある。

つまり量産不良では、小さなばらつきの組み合わせを見る必要がある。

■「全部規格内なのに不良」が起きる理由

各部品は規格内。

設備も規格内。

材料も規格内。

それでも完成品が不合格。

これは、それぞれの公差が悪い方向へ同時に重なった可能性がある。

つまり量産では、部品単体の規格だけでなく、完成品としての公差設計が必要になる。

■試作で使った加工方法を、そのまま量産へ持ち込めないことがある

試作はレーザー加工。

量産は金型加工。

試作は手貼り。

量産はリール自動貼付。

試作は手作業ラミネート。

量産はロールラミネート。

加工方法が変われば、

端面。

圧力。

寸法。

材料応力。

も変わる。

つまり量産工法が違えば、同じ図面でも同じ部材とは限らない。

■量産工法を早い段階で決める

試作が終わってから、

「量産はどうやって作ろう」

と考えると手戻りが増える。

できれば試作段階から、

量産は金型か。

リールか。

自動貼付か。

どの設備を使うか。

を考える。

つまり、試作と量産を別プロジェクトにしないことが重要になる。

■試作では加工しやすくても量産ではコストが合わない

試作一個なら複雑な加工でも対応できる。

しかし量産数量が増えると、加工時間がコストになる。

例えば、

複数回の貼り合わせ。

細かい手作業。

多くの検査。

これらが残ると量産コストが高くなる。

つまり量産成立には、性能だけでなく、タクトとコストも含まれる。

■コストダウンで工程を削ると性能が変わることもある

量産開始後、

粘着材を安いものへ変更する。

圧着時間を短くする。

検査を減らす。

こうしたコストダウンを行う。

すると初期設計時にはなかった問題が出ることがある。

つまり工程変更は、熱性能を含めた再評価が必要になる場合がある。

■サプライヤー変更も性能変更になり得る

同等品だから材料メーカーを変更する。

厚みも同じ。

熱伝導率も同じ。

しかし、

硬さ。

表面状態。

剥離力。

公差。

が違う。

すると加工性や接触状態が変わる可能性がある。

つまり、同等スペック=同等量産性能とは限らない。

■失敗例:試作では全面接触、量産では一部が浮く

試作時は技術者が手貼りした。

気泡もなく、全面接触。

量産では自動貼付へ変更した。

貼付速度が速くなり、圧着時間も短くなった。

一部製品でTIMが完全に接触せず、温度ばらつきが発生した。

材料は同じ。

設計も同じ。

違ったのは工程条件だった。

■失敗例:一つの材料ロットでは問題なし、次ロットで剥離不良

試作材料で自動化評価を行った。

安定して剥離できた。

量産開始後、別ロットになると剥離力が少し上がった。

設備条件の余裕が小さかったため、部材残りが発生した。

つまり、試作条件が材料ばらつきを含んでいなかったのである。

■失敗例:日本では良好、海外量産で反りが増える

日本の試作ラインでは問題なし。

海外量産工場へ移管した。

現地は温湿度条件が違う。

材料保管条件も違う。

その結果、薄膜積層材の反りが増えた。

つまり図面や材料は同じでも、環境条件が違っていた。

■失敗例:出荷時は良品、顧客到着後に貼付できない

リール品を出荷。

工場内検査では問題なし。

夏季輸送で高温環境を受ける。

顧客到着時、ライナー剥離力が変化し、自動貼付機で剥がれにくくなった。

つまり、製造工程だけでなく物流まで含めて量産条件だったのである。

■研究者視点:量産とは「ばらつきの科学」である

試作では、

代表値。

最高性能。

を見る。

量産では、

分布。

公差。

最悪条件。

経時変化。

を見る。

つまり量産技術とは、平均性能を上げることだけではない。

ばらつきを理解し、仕様内へ閉じ込めることである。

■現場視点:不良品と良品を並べて差を見る

量産で温度不良が出た。

材料カタログだけを見るのではなく、

良品。

不良品。

を並べる。

TIMの圧縮跡。

位置。

厚み。

気泡。

材料ロット。

設備履歴。

を比較する。

すると、何が違うか見えてくることがある。

量産問題では、良品と不良品の差を現物で探すことが重要になる。

■試作条件を記録する

試作が成功したとき、

材料品番だけを残すのでは足りない。

どの材料ロットだったか。

どの圧力だったか。

どの温度だったか。

どう貼ったか。

どの厚みだったか。

を記録する。

そうすれば、量産時に再現条件を作りやすい。

■量産条件を「窓」として考える

例えば、

圧力100Nで成功した。

ではなく、

80〜120Nなら安定して成功する。

と分かっている方が強い。

一つの最適点ではなく、

どこまで条件が変わっても性能を維持できるか

を確認する。

量産では、この安定範囲が広いほど扱いやすい。

■最適条件より、安定条件を選ぶ

例えば、

圧力120Nで最も熱性能が良い。

しかし110〜130Nから少し外れると急激に性能が悪化する。

一方、100Nでは最高性能は少し低いが、80〜120Nで安定する。

量産では後者の方が良い場合がある。

つまり、最高性能より工程余裕を優先することも重要になる。

■DFMの考え方が重要になる

DFMとは、製造しやすさを考えて設計する考え方である。

熱対策部材でも、

この形状は打ち抜きやすいか。

この細さは安定加工できるか。

この粘着構成は自動剥離できるか。

この積層は反らないか。

を設計段階から考える。

つまり、量産は製造部門が最後に解決する問題ではなく、設計段階から始まっている。

■OTIS視点:試作を作る会社ではなく、試作性能を量産へ移す会社へ

OTISにとって、9-7は非常に重要なテーマである。

試作部材を加工する。

これはできる。

しかし本当の価値は、その先にある。

試作で得られた性能を、

材料ロットが変わっても。

設備が変わっても。

生産速度が上がっても。

同じように再現する。

つまり、試作性能を量産性能へ変えることである。

■OTISが早期に関わる意味

顧客が材料と形状をすべて決めた後で加工依頼を受ける。

それでも加工はできる。

しかし、量産上の問題が後から見つかることがある。

試作段階から、

材料公差。

形状。

貼り方。

自動化。

リール供給。

を考えれば、量産移行時の手戻りを減らせる。

つまり、加工メーカーが早く入るほど、量産成立へ近づけやすい。

■「図面どおり」だけでは量産保証にならない

図面寸法はすべて合格。

しかし貼りにくい。

反る。

気泡が入る。

自動機で扱えない。

では量産部品として十分ではない。

つまり必要なのは、図面品質だけでなく、

工程で使える品質

である。

■OTISでできること

OTISでは、

● 高精度打ち抜き

● 微細加工

● 薄膜加工

● TIM加工

● グラファイト加工

● 絶縁フィルム加工

● 金属箔加工

● 粘着材加工

● 高精度ラミネート

● 異種材料積層

● 部分ラミネート

● ハーフカット

● キャリア設計

● リール・ツー・リール加工

● 自動貼付向け供給形態

● 画像検査

● 加工条件管理

● トレーサビリティ

● 試作から量産への工程設計

などを通じて、試作で成立した機能部材を量産工程へ移すことに貢献できる。

■OTISの専門外

OTISは、

● 顧客製品全体の設計

● 熱材料そのものの開発

● 自動化設備そのものの設計・製造

● CFD専業解析

を専門とする会社ではない。

必要に応じて、材料メーカー、設備メーカー、顧客設計部門と連携する。

その中でOTISが担うべきなのは、材料・加工・供給形態を量産条件へ落とし込むことである。

■まとめ:試作成功はゴールではなく、量産設計のスタートである

試作では、

良い材料を使う。

丁寧に貼る。

最適な条件を作る。

ことで性能を確認できる。

しかし量産では、

材料がばらつく。

設備が変化する。

温湿度が変わる。

速度が上がる。

作業者が変わる。

輸送条件も加わる。

そのすべての中で、同じ性能を出し続ける必要がある。

だから、

「試作で冷えた」ことと、「量産で冷え続ける」ことは別である。

量産で必要なのは、

一個の最高性能ではない。

何万個作っても仕様を外さないこと。

そして材料ロットが変わっても、設備が多少変化しても、性能を維持できる工程余裕を持つこと。

熱対策が本当に完成するのは、試作評価で温度が下がった瞬間ではない。

その温度性能を、量産でも同じように再現できたときである。

つまり熱対策は、良い材料を選ぶだけでは完成しない。

良い状態で組み込み。

その状態を工程として定義し。

ばらつきを管理し。

量産でも再現する。

ここまでできて初めて、製品として成立する。

そしてこの「試作性能を量産性能へ変える」という仕事こそ、熱対策における加工会社の大きな役割なのである。

 

コラム監修:角本 康司 (オーティス株式会社)
語学留学や商社での企画開発を経て2011年にオーティス株式会社入社。経営企画部を中心に製造・技術部門も兼任し、2018年より代表取締役として事業成長と組織強化に努めている。

 

※本記事は教育・啓発を目的とした一般的な技術解説であり、特定企業・製品・技術を示すものではありません

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