■熱評価だけ合格しても量産成立とは言えない
熱対策部材なら、まず温度を見る。
しかし量産品では、
絶縁。
防水。
剥離。
耐久性。
寸法。
外観。
も必要になる。
熱性能が良くても、他機能が量産ばらつきで不合格になる可能性がある。
つまり量産評価は複数機能で見る必要がある。
■初期性能と経時性能も違う
量産初期品はすべて良好。
しかし半年後、
粘着材がずれる。
TIMが硬化する。
界面が浮く。
すると熱性能が変わる。
つまり量産成立には、製造直後だけでなく、使用後の状態まで考える必要がある。
■量産では「平均値」より「最悪値」が重要になる
試作では平均温度70℃。
非常に良い。
量産では、
65℃。
70℃。
78℃。
85℃。
と分布するかもしれない。
顧客仕様が80℃以下なら、平均値が良くても不合格品が出る。
つまり量産では、最高性能よりも、最悪条件でも仕様に入ることが重要になる。
■ばらつきを設計余裕で吸収する
例えば仕様上の上限が100℃。
試作で99℃。
「合格した」
と判断する。
しかし量産ばらつきを考えると、すぐに100℃を超える。
つまり試作で仕様ぎりぎりの設計は危険である。
必要なのは、量産ばらつきを吸収する余裕である。
■設計マージンは無駄ではない
高性能化すると、設計値ぎりぎりまで攻めたくなる。
しかし量産では、
材料公差。
設備公差。
環境変化。
劣化。
がある。
そのため一定の安全余裕を持たせる。
これは過剰設計ではなく、量産ばらつきを吸収するための設計である。
■工程能力という考え方
量産では、
平均値が仕様内。
だけではなく、
ばらつきが十分小さいか
を見る。
位置精度。
厚み。
貼付精度。
などについて、工程が安定しているかを確認する。
つまり、良品が作れるかではなく、良品を安定して作り続けられる工程かを見る。
■検査で全部救うことはできない
ばらつきがあるなら全数検査すればよい。
そう考えることもできる。
しかし、
内部気泡。
接触圧力。
微小剥離。
など、完成後に簡単には見えないものもある。
さらに検査工程を増やせば、コストも時間も増える。
そのため重要なのは、検査だけではなく、不良が発生しにくい工程を作ることである。
■後工程で見えなくなる不良は特に注意する
TIMを貼る。
その上にヒートシンクを付ける。
完成後にはTIMが見えない。
つまり貼付不良があっても確認しにくい。
こうした工程では、
貼付前の材料状態。
貼付位置。
圧着条件。
を管理する。
つまり、完成品検査より工程保証の方が重要になる場合がある。
■トレーサビリティも量産では重要になる
不具合が起きた。
どの材料ロットか。
どの設備か。
何月何日に加工したか。
どの条件だったか。
が分かれば原因を追いやすい。
量産では、性能だけでなく、履歴を残すことも重要になる。
■データを残すと工程変化が見える
例えば、
貼付位置。
寸法。
バリ。
剥離力。
を継続的に記録する。
すると、
少しずつ悪化している。
材料ロット変更後に変化した。
特定設備だけ違う。
という傾向が見える。
つまり検査データは合否判定だけではなく、工程を改善する情報になる。
■量産不良は一つの原因とは限らない
温度が高い製品が出た。
調べると、
TIM厚みが少し厚い。
貼付位置も少しずれている。
圧着圧力も少し低い。
それぞれ単独では仕様内。
しかし三つが重なって温度が高くなった。
こうしたことがある。
つまり量産不良では、小さなばらつきの組み合わせを見る必要がある。
■「全部規格内なのに不良」が起きる理由
各部品は規格内。
設備も規格内。
材料も規格内。
それでも完成品が不合格。
これは、それぞれの公差が悪い方向へ同時に重なった可能性がある。
つまり量産では、部品単体の規格だけでなく、完成品としての公差設計が必要になる。
■試作で使った加工方法を、そのまま量産へ持ち込めないことがある
試作はレーザー加工。
量産は金型加工。
試作は手貼り。
量産はリール自動貼付。
試作は手作業ラミネート。
量産はロールラミネート。
加工方法が変われば、
端面。
圧力。
寸法。
材料応力。
も変わる。
つまり量産工法が違えば、同じ図面でも同じ部材とは限らない。
■量産工法を早い段階で決める
試作が終わってから、
「量産はどうやって作ろう」
と考えると手戻りが増える。
できれば試作段階から、
量産は金型か。
リールか。
自動貼付か。
どの設備を使うか。
を考える。
つまり、試作と量産を別プロジェクトにしないことが重要になる。
■試作では加工しやすくても量産ではコストが合わない
試作一個なら複雑な加工でも対応できる。
しかし量産数量が増えると、加工時間がコストになる。
例えば、
複数回の貼り合わせ。
細かい手作業。
多くの検査。
これらが残ると量産コストが高くなる。
つまり量産成立には、性能だけでなく、タクトとコストも含まれる。
■コストダウンで工程を削ると性能が変わることもある
量産開始後、
粘着材を安いものへ変更する。
圧着時間を短くする。
検査を減らす。
こうしたコストダウンを行う。
すると初期設計時にはなかった問題が出ることがある。
つまり工程変更は、熱性能を含めた再評価が必要になる場合がある。
■サプライヤー変更も性能変更になり得る
同等品だから材料メーカーを変更する。
厚みも同じ。
熱伝導率も同じ。
しかし、
硬さ。
表面状態。
剥離力。
公差。
が違う。
すると加工性や接触状態が変わる可能性がある。
つまり、同等スペック=同等量産性能とは限らない。
■失敗例:試作では全面接触、量産では一部が浮く
試作時は技術者が手貼りした。
気泡もなく、全面接触。
量産では自動貼付へ変更した。
貼付速度が速くなり、圧着時間も短くなった。
一部製品でTIMが完全に接触せず、温度ばらつきが発生した。
材料は同じ。
設計も同じ。
違ったのは工程条件だった。
■失敗例:一つの材料ロットでは問題なし、次ロットで剥離不良
試作材料で自動化評価を行った。
安定して剥離できた。
量産開始後、別ロットになると剥離力が少し上がった。
設備条件の余裕が小さかったため、部材残りが発生した。
つまり、試作条件が材料ばらつきを含んでいなかったのである。
■失敗例:日本では良好、海外量産で反りが増える
日本の試作ラインでは問題なし。
海外量産工場へ移管した。
現地は温湿度条件が違う。
材料保管条件も違う。
その結果、薄膜積層材の反りが増えた。
つまり図面や材料は同じでも、環境条件が違っていた。
■失敗例:出荷時は良品、顧客到着後に貼付できない
リール品を出荷。
工場内検査では問題なし。
夏季輸送で高温環境を受ける。
顧客到着時、ライナー剥離力が変化し、自動貼付機で剥がれにくくなった。
つまり、製造工程だけでなく物流まで含めて量産条件だったのである。
■研究者視点:量産とは「ばらつきの科学」である
試作では、
代表値。
最高性能。
を見る。
量産では、
分布。
公差。
最悪条件。
経時変化。
を見る。
つまり量産技術とは、平均性能を上げることだけではない。
ばらつきを理解し、仕様内へ閉じ込めることである。
■現場視点:不良品と良品を並べて差を見る
量産で温度不良が出た。
材料カタログだけを見るのではなく、
良品。
不良品。
を並べる。
TIMの圧縮跡。
位置。
厚み。
気泡。
材料ロット。
設備履歴。
を比較する。
すると、何が違うか見えてくることがある。
量産問題では、良品と不良品の差を現物で探すことが重要になる。
■試作条件を記録する
試作が成功したとき、
材料品番だけを残すのでは足りない。
どの材料ロットだったか。
どの圧力だったか。
どの温度だったか。
どう貼ったか。
どの厚みだったか。
を記録する。
そうすれば、量産時に再現条件を作りやすい。
■量産条件を「窓」として考える
例えば、
圧力100Nで成功した。
ではなく、
80〜120Nなら安定して成功する。
と分かっている方が強い。
一つの最適点ではなく、
どこまで条件が変わっても性能を維持できるか
を確認する。
量産では、この安定範囲が広いほど扱いやすい。
■最適条件より、安定条件を選ぶ
例えば、
圧力120Nで最も熱性能が良い。
しかし110〜130Nから少し外れると急激に性能が悪化する。
一方、100Nでは最高性能は少し低いが、80〜120Nで安定する。
量産では後者の方が良い場合がある。
つまり、最高性能より工程余裕を優先することも重要になる。
■DFMの考え方が重要になる
DFMとは、製造しやすさを考えて設計する考え方である。
熱対策部材でも、
この形状は打ち抜きやすいか。
この細さは安定加工できるか。
この粘着構成は自動剥離できるか。
この積層は反らないか。
を設計段階から考える。
つまり、量産は製造部門が最後に解決する問題ではなく、設計段階から始まっている。
■OTIS視点:試作を作る会社ではなく、試作性能を量産へ移す会社へ
OTISにとって、9-7は非常に重要なテーマである。
試作部材を加工する。
これはできる。
しかし本当の価値は、その先にある。
試作で得られた性能を、
材料ロットが変わっても。
設備が変わっても。
生産速度が上がっても。
同じように再現する。
つまり、試作性能を量産性能へ変えることである。
■OTISが早期に関わる意味
顧客が材料と形状をすべて決めた後で加工依頼を受ける。
それでも加工はできる。
しかし、量産上の問題が後から見つかることがある。
試作段階から、
材料公差。
形状。
貼り方。
自動化。
リール供給。
を考えれば、量産移行時の手戻りを減らせる。
つまり、加工メーカーが早く入るほど、量産成立へ近づけやすい。
■「図面どおり」だけでは量産保証にならない
図面寸法はすべて合格。
しかし貼りにくい。
反る。
気泡が入る。
自動機で扱えない。
では量産部品として十分ではない。
つまり必要なのは、図面品質だけでなく、
工程で使える品質
である。
■OTISでできること
OTISでは、
● 高精度打ち抜き
● 微細加工
● 薄膜加工
● TIM加工
● グラファイト加工
● 絶縁フィルム加工
● 金属箔加工
● 粘着材加工
● 高精度ラミネート
● 異種材料積層
● 部分ラミネート
● ハーフカット
● キャリア設計
● リール・ツー・リール加工
● 自動貼付向け供給形態
● 画像検査
● 加工条件管理
● トレーサビリティ
● 試作から量産への工程設計
などを通じて、試作で成立した機能部材を量産工程へ移すことに貢献できる。
■OTISの専門外
OTISは、
● 顧客製品全体の設計
● 熱材料そのものの開発
● 自動化設備そのものの設計・製造
● CFD専業解析
を専門とする会社ではない。
必要に応じて、材料メーカー、設備メーカー、顧客設計部門と連携する。
その中でOTISが担うべきなのは、材料・加工・供給形態を量産条件へ落とし込むことである。
■まとめ:試作成功はゴールではなく、量産設計のスタートである
試作では、
良い材料を使う。
丁寧に貼る。
最適な条件を作る。
ことで性能を確認できる。
しかし量産では、
材料がばらつく。
設備が変化する。
温湿度が変わる。
速度が上がる。
作業者が変わる。
輸送条件も加わる。
そのすべての中で、同じ性能を出し続ける必要がある。
だから、
「試作で冷えた」ことと、「量産で冷え続ける」ことは別である。
量産で必要なのは、
一個の最高性能ではない。
何万個作っても仕様を外さないこと。
そして材料ロットが変わっても、設備が多少変化しても、性能を維持できる工程余裕を持つこと。
熱対策が本当に完成するのは、試作評価で温度が下がった瞬間ではない。
その温度性能を、量産でも同じように再現できたときである。
つまり熱対策は、良い材料を選ぶだけでは完成しない。
良い状態で組み込み。
その状態を工程として定義し。
ばらつきを管理し。
量産でも再現する。
ここまでできて初めて、製品として成立する。
そしてこの「試作性能を量産性能へ変える」という仕事こそ、熱対策における加工会社の大きな役割なのである。
コラム監修:角本 康司 (オーティス株式会社)
語学留学や商社での企画開発を経て2011年にオーティス株式会社入社。経営企画部を中心に製造・技術部門も兼任し、2018年より代表取締役として事業成長と組織強化に努めている。
※本記事は教育・啓発を目的とした一般的な技術解説であり、特定企業・製品・技術を示すものではありません


