【1】トランジスタとは
トランジスタは、「電気の流れを増幅・制御する装置」です。
英語では Transistor = Transfer + Resistor(抵抗を転送するもの)。
1950年代に発明され、真空管に代わる革命的な電子部品となりました。
現代のスマートフォンやPCの中には、数十億個のトランジスタが集積されています。
半導体の世界では、トランジスタが「すべての論理・演算の最小単位」です。
【2】基本構造の2種類
トランジスタには主に2つのタイプがあります。
- バイポーラトランジスタ(BJT:Bipolar Junction Transistor)
- 電界効果トランジスタ(FET:Field Effect Transistor)
それぞれの動作原理は異なりますが、
目的はどちらも「小さな信号で大きな電流を制御する」ことです。
【3】BJT(バイポーラトランジスタ)の構造
BJTは、PN接合を2つ組み合わせた構造になっています。
種類は2つ:
・NPN型(N-P-N)
・PNP型(P-N-P)
NPN型を例にすると:
・エミッタ(Emitter)
・ベース(Base)
・コレクタ(Collector)
の3つの領域で構成されます。
電流の流れ方:
・ベースにわずかな電流を流すと、
コレクタからエミッタに大きな電流が流れる。
これにより、「小さな入力 → 大きな出力」=増幅が可能になります。
【4】BJTの動作原理(NPN型)
1.ベースに少しの電流を流すと、ベース・エミッタ間のPN接合が順方向バイアスとなる。
2.エミッタから電子がベースに注入される。
3.ベースは非常に薄いため、電子の多くが再結合せず、コレクタ側へ抜ける。
4.結果として、コレクタ電流がベース電流の100倍程度に増幅される。
→ これが「電流増幅作用」です。
【5】FET(電界効果トランジスタ)の構造
FETは、電圧で電流を制御するトランジスタです。
BJTが「電流で電流を制御」するのに対し、
FETは「電圧で電流を制御」します。
代表的なFETは MOSFET(Metal Oxide Semiconductor FET)。
構成要素は:
・ソース(Source)
・ドレイン(Drain)
・ゲート(Gate)
・チャネル(Channel)
【6】MOSFETの動作原理
ゲートに電圧をかけると、酸化膜を隔てて電界が発生します。
この電界によって、チャネル(電子が通る道)の状態が変化します。
・電圧をかけないと、チャネルは閉じており電流が流れない。
・電圧をかけると、チャネルが開き、電子がソース→ドレインへ流れる。
つまり、ゲート電圧がスイッチのON/OFFを決定します。
MOSFETは電力消費が少なく、集積化に向いているため、
現代の半導体集積回路の主流です。
【7】トランジスタの2つの役割
1.スイッチ:ON/OFF制御(デジタル回路)
2.増幅器:小信号を大きくする(アナログ回路)
コンピュータの「0」と「1」は、
このトランジスタのON/OFFで表現されています
【8】微細化と進化
トランジスタは年々小型化され、現在は3nm世代に突入しています。
1つのチップの中に数百億個が集積され、
消費電力を抑えながら高速演算を可能にしています。
最近では、以下のような新構造も登場しています。
・FinFET(フィン型トランジスタ)
・GAAFET(Gate-All-Around構造)
・ナノシートトランジスタ
・3D積層構造(TSMC、Samsungなどが採用)
【9】課題と今後の展望
・微細化の限界(量子トンネル効果の増大)
・リーク電流や発熱の問題
・製造コストの急上昇
・新材料(SiC, GaN, CNT, 2D材料)の実用化
→ 今後は「物理的な微細化」から「新材料・新構造・AI設計」へシフト。
【10】まとめ
・トランジスタは電流や電圧を制御・増幅する半導体素子。
・BJTは電流で制御、FETは電圧で制御。
・すべての電子機器・IC・CPUの基本構成要素。
・今後はナノスケールから原子レベル設計へ進化。
【理解チェック(3問)】
1.トランジスタの主な役割は何か?
2.MOSFETの動作を決めるのは何か?
3.現代の主流構造で使われているのは?
コラム監修:角本 康司 (オーティス株式会社)
語学留学や商社での企画開発を経て2011年にオーティス株式会社入社。経営企画部を中心に製造・技術部門も兼任し、2018年より代表取締役として事業成長と組織強化に努めている。
※本記事は教育・啓発を目的とした一般的な技術解説であり、特定企業・製品・技術を示すものではありません。



