【1】なぜムーアの法則は限界に近づいているのか
トランジスタのサイズは現在、数ナノメートルという極めて小さな領域に到達している。
このレベルになると、従来の半導体設計ではさまざまな問題が顕在化する。
主な課題:
・リーク電流の増加
・量子トンネル効果による電流漏れ
・発熱の増大
・配線抵抗の増加
トランジスタが小さくなるほど、電子の挙動は古典物理ではなく量子力学の影響を受けるようになり、制御が難しくなる。
【2】製造コストの急激な上昇
ムーアの法則のもう一つの前提は「コスト低減」である。しかし最先端プロセスでは、この前提も崩れ始めている。
主な要因:
・EUV露光装置の高価格化
・製造装置の複雑化
・開発費の増大
例えばEUV露光装置は1台 200億円以上 とされており、先端半導体工場の建設費は 2兆円規模 に達することもある。
このため最先端半導体を製造できる企業は、現在ほぼ TSMC・Samsung・Intel に限られている。
【3】トランジスタ構造の進化
微細化の限界に対応するため、トランジスタの構造そのものも進化している。
主な構造の変化:
・プレーナートランジスタ
・FinFET(立体構造トランジスタ)
・GAAFET(Gate-All-Around)
GAAFETは、チャネルをゲートが完全に囲む構造であり、電流制御性能を向上させることができる。
今後の3nm以下プロセスでは、この構造が主流になると考えられている。
【4】ポストムーアの新しい方向
トランジスタ微細化だけに頼らない技術として、さまざまなアプローチが研究されている。
代表例:
・先端パッケージ(2.5D / 3D)
・Chipletアーキテクチャ
・HBMメモリによる帯域向上
・専用アクセラレータ(AIチップ)
これらは「More than Moore」とも呼ばれ、システム全体の性能向上を目指すアプローチである。
【5】半導体性能は「集積」から「統合」へ
これまで半導体の性能は「どれだけ多くのトランジスタを詰め込めるか」によって決まっていた。しかし現在は、
・チップ
・パッケージ
・メモリ
・インターコネクトといった複数の要素を組み合わせた システム統合技術 が重要になっている。
AIチップやデータセンター向けプロセッサでは、この統合技術が性能を左右する重要な要素となっている。
【まとめ(10-2)】
・ムーアの法則は物理的・経済的限界に近づいている
・トランジスタ構造はFinFETからGAAFETへ進化
・半導体性能は微細化だけでは向上しない
・先端パッケージやChipletが重要な役割を持つ
【理解チェック】
1.なぜトランジスタ微細化は難しくなっているのか?
2.EUV露光装置が半導体製造コストに与える影響は何か?
3.「More than Moore」とはどのような考え方か?
コラム監修:角本 康司 (オーティス株式会社)
語学留学や商社での企画開発を経て2011年にオーティス株式会社入社。経営企画部を中心に製造・技術部門も兼任し、2018年より代表取締役として事業成長と組織強化に努めている。
※本記事は教育・啓発を目的とした一般的な技術解説であり、特定企業・製品・技術を示すものではありません。


