■量産で重要なのは最高性能ではない
試作では、
最も温度が下がった。
最も薄くできた。
最も高精度にできた。
という最高性能へ目が向きやすい。
しかし量産では、
平均値。
ばらつき。
最悪値。
が重要になる。
例えば、
平均温度70℃。
非常に良い。
しかし一部が85℃になる。
仕様上限が80℃なら、不良になる。
つまり量産では、最高性能より、最悪条件でも仕様を外さないことが重要になる。
■一個の成功と工程能力は違う
一個だけ±0.05mmで加工できる。
これは技術力である。
しかし量産では、
10000個作っても。
材料ロットが変わっても。
設備が少し摩耗しても。
同じ精度が必要になる。
つまり本当に重要なのは、「±0.05mmを出せるか」ではなく、
「±0.05mmを工程として維持できるか」である。
■量産とは、ばらつきを管理する仕事である
材料には公差がある。
設備にも公差がある。
加工にも公差がある。
測定にも誤差がある。
これらを完全にゼロにはできない。
だから量産では、ばらつきをなくすのではなく、
ばらつきがあっても製品仕様内に収まる工程を作ることが重要になる。
■材料ロット差を吸収する
同じ材料品番でも、
厚み。
硬さ。
粘着力。
剥離力。
表面状態。
が少しずつ変わる場合がある。
試作時に使った材料ロットが扱いやすかった。
量産ロットでは少し硬い。
すると加工結果が変わる可能性がある。
つまり、材料ロットが変わっても成立する加工条件を作る必要がある。
■加工条件に余裕を持たせる
圧力100Nでしか成功しない。
99Nでも101Nでも不良。
この工程は量産に弱い。
一方、
80〜120Nで安定して成功する。
なら量産しやすい。
つまり必要なのは、一点の最適条件ではなく、安定して成立する条件幅である。
■最高条件より「工程窓」を作る
最も熱性能が良い条件。
最も加工速度が速い条件。
だけを選ぶのではなく、
多少条件が変わっても品質が維持できる範囲を探す。
例えば、
速度8〜12m/min。
圧力90〜110N。
温度20〜30℃。
の範囲なら安定。
という状態。
これが量産に強い工程になる。
■公差は単独ではなく積み上がる
例えば、
TIM厚み±0.05mm。
貼付位置±0.2mm。
相手部品高さ±0.1mm。
冷却プレート平面度±0.1mm。
一つ一つは仕様内。
しかし悪い方向へ重なると、接触不足が起こる可能性がある。
つまり、各部品が規格内でも、完成品が規格外になることがある。
■最悪条件を考える
平均値同士を組み合わせれば、問題なく成立する。
しかし量産では、
最も厚いTIM。
最も大きな隙間。
最も低い圧着力。
が同時に発生する可能性がある。
その組み合わせでも性能が出るか。
これを見る必要がある。
つまり、平均設計から最悪条件設計へ視点を変える必要がある。
■設計マージンは量産のためにある
仕様上限100℃。
試作結果99℃。
数字だけなら合格。
しかし量産では、
材料差。
環境差。
設備差。
がある。
簡単に100℃を超える可能性がある。
だから、量産では余裕が必要になる。
設計マージンとは、過剰設計ではなく、ばらつきを吸収するための余白である。
■寸法だけ管理しても熱性能は安定しない
TIM外形。
寸法合格。
しかし、
厚み。
圧縮状態。
気泡。
貼付位置。
が違う。
すると熱性能は変わる。
つまり熱対策部材では、図面寸法だけでは十分ではない。
製品機能へ影響する工程条件を特定して管理することが必要になる。
■重要特性を見極める
すべての寸法を厳しく管理する必要はない。
例えば、
TIMの熱源に対する位置。
絶縁端部位置。
総厚み。
は重要。
一方、
外観上の一部寸法はそれほど重要ではない場合もある。
つまり量産安定化では、どの特性が機能を左右するかを見極めることが重要になる。
■重要工程条件も見極める
圧力。
速度。
張力。
温度。
剥離角度。
金型状態。
すべてを同じ重要度で管理する必要はない。
どの条件が、
寸法。
貼付。
気泡。
熱性能。
へ強く影響するのか。
これを確認する。
つまり、管理項目を増やすことではなく、重要項目を正しく選ぶことが必要になる。
■金型は少しずつ変化する
打ち抜き金型は使用すれば摩耗する。
刃先状態が変わる。
バリが増える。
切断面が変わる。
寸法も少しずつ変化する可能性がある。
つまり加工条件は、
初日の金型だけで決められない。
金型寿命全体を通して品質を維持できるかを見る必要がある。
■金型交換は不良が出てからでは遅い
不良発生。
金型交換。
では、その前に多くの不良品を作っている可能性がある。
そこで、
ショット数。
バリ。
寸法傾向。
刃先状態。
を監視する。
一定状態になったら予防的にメンテナンスする。
つまり、設備保全は品質保証の一部である。
■予防保全と量産安定化はつながっている
設備が壊れてから直す。
ではなく、
壊れる前に兆候を見つける。
ローラー。
刃物。
ガイド。
吸着ヘッド。
それぞれに交換基準を持つ。
これによって、不良発生前に工程を整える。
つまり量産安定化では、製造と保全を分けて考えない。
■設備温度も品質を変えることがある
朝一番。
設備が冷えている。
数時間後。
設備温度が上がる。
すると、
金型。
ローラー。
材料張力。
の状態が変わる場合がある。
つまり量産では、
立ち上げ時。
安定運転時。
の違いを見る必要がある。
■ウォームアップ条件も工程条件になる
設備を起動してすぐ生産する。
最初の100個だけ寸法が違う。
ということがある。
その場合、
一定時間暖機。
試し打ち。
確認後量産開始。
とする。
つまり、生産開始条件まで標準化することが量産安定化につながる。
■温度・湿度も材料状態を変える
フィルム。
粘着材。
発泡体。
は、温湿度の影響を受ける場合がある。
夏。
冬。
梅雨。
で、
材料伸び。
粘着力。
剥離性。
静電気。
が変わる。
つまり工程条件は、設備設定だけではなく、工場環境も含む。
■季節変動を工程で吸収する
夏だけ不良が増える。
冬だけ剥離不良。
なら、季節と材料挙動が関係している可能性がある。
温湿度管理。
材料保管。
加工条件補正。
などで対応する。
つまり、「同じ設定値だから同じ工程」とは限らない。
■材料保管も量産工程の一部
材料を適切に保管する。
温度。
湿度。
保管期限。
開封後時間。
が決まっている材料もある。
加工機へ投入する前から品質は始まっている。
つまり、材料倉庫も製造工程の一部と考える必要がある。
■FIFOだけでは足りない場合もある
先入れ先出し。
重要。
しかし、
冷蔵庫から出して何時間か。
開封して何日か。
まで管理が必要な材料もある。
つまり材料管理では、
ロット。
時間。
環境。
を組み合わせて見る場合がある。
■加工速度を上げると条件が変わる
試作速度。
低速。
量産。
高速。
すると、
材料張力。
粘着挙動。
熱。
静電気。
が変わる。
つまり、「同じ設備・同じ材料」でも速度が変われば別工程になることがある。
■タクト改善と品質のバランス
生産性を上げるため速度を上げる。
不良が増える。
元へ戻す。
ではなく、
どこまでなら品質を維持できるか。
を確認する。
つまり量産では、最高速度より最高安定生産性を狙う方が重要になる。
■前編のまとめ:量産安定化は「最高条件」ではなく「余裕のある条件幅」から始まる
試作の成功は、量産のスタート地点にすぎない。
量産で問われるのは、
平均値。
ばらつき。
最悪値。
である。
材料ロット。
公差の積み上がり。
金型摩耗。
設備温度。
季節の温湿度。
材料保管状態。
加工速度。
こうした変動は、完全にはなくせない。
だからこそ、
一点の最適条件ではなく、工程窓を持つこと。
平均設計ではなく、最悪条件でも成立させること。
機能を左右する重要特性と重要工程条件を見極めること。
不良が出る前に、変化の兆候を捉えること。
が必要になる。
つまり前編で見てきたのは、ばらつきが「どこから生まれるか」と、それを「受け止められる工程をどう設計するか」である。
中編では、その工程を、人・設備・拠点が変わっても再現し続けるための仕組みについて考える。
コラム監修:角本 康司 (オーティス株式会社)
語学留学や商社での企画開発を経て2011年にオーティス株式会社入社。経営企画部を中心に製造・技術部門も兼任し、2018年より代表取締役として事業成長と組織強化に努めている。
※本記事は教育・啓発を目的とした一般的な技術解説であり、特定企業・製品・技術を示すものではありません





