TECH COLUMN 技術コラム

10-5. 熱対策材料の加工(前編) ― 高性能な材料を、「実際に使える熱対策部品」へ変える ―

材料・加工技術

公開日:
10-5. 熱対策材料の加工(前編) ― 高性能な材料を、「実際に使える熱対策部品」へ変える ―

熱対策材料には、さまざまな種類がある。
TIM。
グラファイト。
銅箔。
アルミ箔。
絶縁性熱伝導シート。
放熱シート。
熱伝導性粘着材。
発泡体。
断熱材。
シール材。
材料メーカーは、それぞれの材料性能を高めている。
熱伝導率を上げる。
薄くする。
柔らかくする。
絶縁性を高める。
耐熱性を上げる。
しかし、材料性能が高いだけでは製品にはならない。
必要な形にする。
必要な場所だけ残す。
必要な材料と積層する。
粘着性を付ける。
絶縁する。
リール化する。
自動で貼れるようにする。
そして量産でばらつかせない。
ここまで行って、初めて熱対策材料は「部品」になる。
つまり熱対策材料の加工とは、単に材料を切ることではない。
材料メーカーが作った熱性能を、顧客が実際に使える部品性能へ変える工程である。

■熱対策材料には、それぞれ違う役割がある

熱対策材料を一括りにすると、本質を見失いやすい。

例えばTIMは、主に界面をつなぐ。

グラファイトは、熱を面方向へ広げる。

銅箔・アルミ箔は、熱を運びながらEMIなど別機能も持たせられる。

絶縁性熱伝導材は、熱を通しながら電気を止める。

断熱材は、逆に熱を通しにくくする。

つまり、

「熱対策材料」

という一つのカテゴリーの中に、

熱を通す材料と、熱を広げる材料と、熱を止める材料が存在する。

重要なのは、材料名ではなく役割で考えることである。

■TIMは「熱を伝える材料」だけではない

TIMの役割は、単純な熱伝導だけではない。

発熱体と冷却部材の表面には、微細な凹凸がある。

TIMは、その凹凸を埋める。

接触面積を増やす。

空気層を減らす。

つまりTIMは、

熱伝導材料であると同時に、界面を成立させる材料

である。

だからTIMの加工では、熱伝導率だけを見ることはできない。

厚み。

柔らかさ。

圧縮性。

粘着性。

形状。

まで考える必要がある。

■TIMは柔らかいからこそ加工が難しい

高追従性TIMは柔らかい。

これは熱的には有利。

しかし加工では難しい。

打ち抜く。

押される。

変形する。

刃物が抜ける。

戻る。

そのため、金型形状どおりに完成しない場合がある。

さらに、

剥離。

吸着。

搬送。

でも変形する。

つまりTIM加工では、切る精度だけでなく、加工前後の変形を読む技術が必要になる。

■TIMの厚みは非常に重要

厚すぎる。

熱抵抗が増える。

薄すぎる。

段差を吸収できない。

一部が浮く。

つまりTIMでは、

最も薄い材料

が最適とは限らない。

必要なのは、相手部材の反り・段差・圧力まで含めた適正厚みである。

加工会社が材料厚みを決めるわけではないが、実装条件を理解したうえで加工することには意味がある。

■TIM形状が熱性能を変える

TIMが発熱面より小さい。

熱源全体を覆えない。

逆に大きすぎる。

周辺部品へ干渉する。

あるいは不要な場所へ熱を流す。

つまりTIMの外形は単なる寸法ではない。

熱がどの範囲から入るかを決める形状である。

■グラファイトは「熱を横に逃がす」材料

グラファイトシートは、面方向へ熱を広げる用途で使われることがある。

例えば、

半導体の熱を、

筐体。

フレーム。

広い金属面。

へ逃がす。

このときグラファイトは、熱の配線のような役割を持つ。

そのため加工では、

どこから熱を取るか。

どこへ熱を運ぶか。

どこを避けるか。

が重要になる。

つまりグラファイト加工は、熱の経路を形にする加工とも言える。

■グラファイトは高性能だが扱いにくい

グラファイトは材料によって、

脆い。

欠けやすい。

粉が出る。

導電性がある。

といった特徴を持つ。

そのため、

保護フィルム。

絶縁フィルム。

粘着材。

と組み合わせて使うことがある。

つまり実際の製品では、

グラファイト単体ではなく、

グラファイトを中心とした複合部材

として加工する価値が出る。

■グラファイト端部も設計対象になる

端部が露出する。

導電部が近接する。

粉が出る。

こうした問題を避けるために、

端部をフィルムで覆う。

外周だけ絶縁する。

必要部分だけ露出させる。

という加工を行うことがある。

つまり、

全面を同じ状態にするのではなく、

面内で役割を作り分ける加工

が重要になる。

■銅箔は熱と電気の両方に関係する

銅は熱伝導性が高い。

そのため熱拡散や熱輸送に使える。

一方で、電気も通す。

EMIシールドとして使うこともできる。

つまり銅箔は、

熱。

電気。

EMI。

の複数機能に関係する。

これは大きなメリットである一方、

絶縁設計を誤ると短絡やノイズへつながる。

つまり銅箔加工では、

熱だけでなく電気的な配置まで意識する必要がある。

■薄い銅箔ほど加工品質が重要になる

薄い銅箔は軽く、柔軟性がある。

しかし、

バリ。

端面めくれ。

反り。

折れ。

が起こりやすくなる。

特に絶縁フィルムと組み合わせる場合、

小さなバリが絶縁材へダメージを与える可能性がある。

つまり金属箔加工では、

外形精度+端面品質

が重要になる。

■アルミ箔は軽量化と相性がよい

アルミは銅より軽い。

そのため重量制約が厳しい用途では有力な選択肢になる。

一方で、

必要な熱性能。

導電性。

表面処理。

接着性。

などを考える必要がある。

つまり銅かアルミかは、単純な熱伝導率比較では決まらない。

熱・重量・電気・コストのバランス

で選ぶ必要がある。

■絶縁性熱伝導材は「熱を通し、電気を止める」

パワー半導体。

インバーター。

電源。

バッテリー周辺。

では、

熱を逃がしたい。

しかし電気は流したくない。

という要求がある。

そこで絶縁性熱伝導シートなどが使われる。

この場合、

厚み。

絶縁耐力。

熱抵抗。

圧縮性。

が同時に重要になる。

つまり熱対策材料加工では、一つの性能だけを最大化できない。

■絶縁材の加工品質が安全性につながる

絶縁材そのものに高い耐電圧性能があっても、

加工時に傷が入る。

金属バリが刺さる。

端部が欠ける。

位置がずれる。

と、製品では性能が落ちる。

つまり、材料の絶縁性能と、加工後の絶縁性能は別物と考える必要がある。

■断熱材も熱対策材料である

熱対策というと、熱を逃がすことだけを考えやすい。

しかし、

バッテリーの熱暴走。

人体への熱移動。

隣接部品への熱干渉。

では、熱を止めることも重要になる。

つまり断熱材も熱対策材料の一つである。

熱伝導材と断熱材を適切に使い分けることで、熱を流す場所と、流さない場所を設計することができる。

■一つの製品の中で放熱と断熱を使い分ける

例えばバッテリー。

通常運転時には、セルから冷却プレートへ熱を逃がしたい。

しかし異常発熱時には、隣のセルへ熱を広げたくない。

つまり、

セル下側は放熱。

セル間は断熱。

という構造が考えられる。

このように熱対策では、一種類の材料で解決するのではなく、

複数の材料を場所ごとに使い分けることが重要になる。

■粘着材は「固定するだけ」の材料ではない

熱対策材料を製品へ固定するため、粘着材を使うことがある。

しかし粘着材を入れると、

厚みが増える。

熱抵抗が増える。

接触状態が変わる。

ことがある。

つまり粘着材は、

固定にはプラス。

熱にはマイナス。

になる場合がある。

だから、

全面粘着。

部分粘着。

仮固定。

などを使い分ける。

■粘着材の配置が熱経路を変える

例えばグラファイトの全面に粘着材を貼る。

固定はしやすい。

しかし熱源との間に粘着層が入る。

一方で、外周だけ粘着し、中央は直接接触させる構造なら、熱抵抗を減らせる可能性がある。

つまり、どこに粘着材を置くかも熱設計になる。

■シール材も熱と無関係ではない

屋外機器。

バッテリー。

ロボット。

電源。

では、防水・防塵のためにシール材を使う。

しかし密閉すれば熱がこもる。

またシール材が熱経路へ入れば、熱が流れにくくなる場合もある。

つまり、

熱。

防水。

シール。

も同時に考える必要がある。

■発泡体は段差吸収や圧力調整にも使える

発泡体は、

クッション。

シール。

スペーサー。

圧力調整。

として使われる。

熱対策部材の近くでは、

TIMへ適切な圧力を与える。

振動を吸収する。

隙間を埋める。

といった役割を持つ場合がある。

つまり熱対策は、TIMやグラファイトだけで完結しない。

周辺の機械部材も熱界面を支えている。

■前編のまとめ:「熱対策材料」の中には、正反対の材料が入っている

熱対策材料を一括りにすると、本質を見失う。

 

TIMは界面をつなぐ。

グラファイトは熱を横へ広げる。

銅箔・アルミ箔は熱を運びながらEMIにも関わる。

絶縁性熱伝導材は、熱を通しながら電気を止める。

断熱材は、熱を通さない。

 

つまり一つのカテゴリーの中に、

熱を通す材料と、広げる材料と、止める材料が同居している。

 

だからバッテリーでは、

セル下は放熱、セル間は断熱という使い分けが成立する。

 

そして、どの材料も加工で性質が変わる。

 

柔らかいTIMは刃の前で逃げ、抜けば戻る。

グラファイトは欠け、粉が出て、端部が導電する。

薄い銅箔はバリが絶縁材を傷つける。

絶縁材は、材料の耐電圧と加工後の耐電圧が別物になる。

粘着材は固定にはプラスだが、熱にはマイナスになる。

 

つまり、

材料性能と、加工後の部品性能は同じではない。

 

そして熱対策は、TIMやグラファイトだけで完結しない。

粘着材もシール材も発泡体も、熱界面を支えている。

 

後編では、それらをどう組み合わせ、

どう量産部品へ変えるかを見ていく。

 

コラム監修:角本 康司 (オーティス株式会社)
語学留学や商社での企画開発を経て2011年にオーティス株式会社入社。経営企画部を中心に製造・技術部門も兼任し、2018年より代表取締役として事業成長と組織強化に努めている。

 

※本記事は教育・啓発を目的とした一般的な技術解説であり、特定企業・製品・技術を示すものではありません

最新記事

  • 10-5. 熱対策材料の加工(前編) ― 高性能な材料を、「実際に使える熱対策部品」へ変える ―

    10-5. 熱対策材料の加工(前編) ― 高性能な材料を、「実際に使える熱対策部品」へ変える ―

    熱対策材料には、さまざまな種類がある。 TIM。 グラファイト。 銅箔。 アルミ箔。 絶縁... 続きを読む
  • 10-4. 高精度ラミネート(後編) ― 材料を重ねるのではなく、機能を正しい位置に積み上げる技術 ―

    10-4. 高精度ラミネート(後編) ― 材料を重ねるのではなく、機能を正しい位置に積み上げる技術 ―

    前編では、材料を重ねたときに何が起きるかを見てきた。 位置。張力。圧力。速度。気泡。熱膨張差。反り... 続きを読む
  • 10-4. 高精度ラミネート(前編) ― 材料を重ねるのではなく、機能を正しい位置に積み上げる技術 ―

    10-4. 高精度ラミネート(前編) ― 材料を重ねるのではなく、機能を正しい位置に積み上げる技術 ―

    熱対策部材は、一枚の材料だけで成立するとは限らない。 TIM。 グラファイト。 絶縁フィルム。... 続きを読む

関連記事

  • 10-5. 熱対策材料の加工(前編) ― 高性能な材料を、「実際に使える熱対策部品」へ変える ―

    10-5. 熱対策材料の加工(前編) ― 高性能な材料を、「実際に使える熱対策部品」へ変える ―

    熱対策材料には、さまざまな種類がある。 TIM。 グラファイト。 銅箔。 アルミ箔。 絶縁... 続きを読む
  • 10-4. 高精度ラミネート(後編) ― 材料を重ねるのではなく、機能を正しい位置に積み上げる技術 ―

    10-4. 高精度ラミネート(後編) ― 材料を重ねるのではなく、機能を正しい位置に積み上げる技術 ―

    前編では、材料を重ねたときに何が起きるかを見てきた。 位置。張力。圧力。速度。気泡。熱膨張差。反り... 続きを読む
  • 10-4. 高精度ラミネート(前編) ― 材料を重ねるのではなく、機能を正しい位置に積み上げる技術 ―

    10-4. 高精度ラミネート(前編) ― 材料を重ねるのではなく、機能を正しい位置に積み上げる技術 ―

    熱対策部材は、一枚の材料だけで成立するとは限らない。 TIM。 グラファイト。 絶縁フィルム。... 続きを読む

CONTACT お問い合わせ

岡山 / Okayama

0867-42-3690

東京 / Tokyo

03-6810-4830

お問い合わせはこちら