■試作は理想条件に近づけやすい
試作では、
材料を選べる。
作業者を選べる。
ゆっくり貼れる。
良いものだけ使える。
問題があればやり直せる。
そのため、非常に良い状態を作ることができる。
しかし量産では、
材料ロットが変わる。
作業者が変わる。
設備状態が変わる。
生産速度も上がる。
つまり、試作より多くの変動要因が入る。
■試作一個の成功は、量産性能の保証ではない
一個きれいに作れた。
十個すべて合格した。
これは重要である。
しかし量産では、
1000個。
1万個。
10万個。
を作る。
数量が増えるほど、試作時には見えなかった小さなばらつきが出てくる。
つまり、試作評価は量産分布のごく一部を見ているにすぎない。
■量産では材料ロットが変わる
試作では一つの材料ロットを使うことが多い。
しかし量産では、継続的に複数ロットを使う。
同じ品番でも、
厚み。
硬さ。
粘着力。
剥離力。
表面状態。
に一定のばらつきが存在する場合がある。
試作時に使ったロットが偶然扱いやすかった可能性もある。
つまり量産では、材料の平均性能だけでなく、材料公差の範囲全体で工程が成立するかを見る必要がある。
■厚み公差は積み重なる
例えば、
TIM ±0.05mm。
絶縁フィルム ±0.02mm。
粘着層 ±0.02mm。
という構造がある。
一つ一つの公差は小さい。
しかし積層すると、完成部材の厚みばらつきは大きくなる。
さらに相手部品側にも寸法公差がある。
すると最終的な圧縮量が、
ある製品では大きい。
別の製品では小さい。
という状態になる。
つまり量産では、各部品の公差を足し合わせた最悪条件を見る必要がある。
■設計値ではなく、公差端を見る
例えば設計上の隙間が1.0mm。
TIM厚みも1.0mm。
図面上では完全に一致する。
しかし実際には、
隙間 0.8〜1.2mm。
TIM 0.9〜1.1mm。
というばらつきがあるかもしれない。
すると、
十分圧縮される組み合わせ。
ほとんど接触しない組み合わせ。
が発生する可能性がある。
つまり量産設計では、平均値ではなく、最大・最小の組み合わせまで考える必要がある。
■設備も常に同じ状態ではない
量産設備は毎日動く。
金型。
ローラー。
吸着ヘッド。
ガイド。
刃物。
これらは少しずつ摩耗する。
初日の設備と、数十万個加工した後の設備は完全に同じではない。
そのため量産では、
「設備が正常なときに作れる」
だけではなく、
設備変化の中でも品質を維持できるか
が重要になる。
■金型摩耗が部材性能へ影響する
打ち抜き金型が摩耗すると、
バリが増える。
外形が変わる。
穴位置が変わる。
切断面が悪くなる。
こうした変化が、
絶縁。
貼付位置。
自動認識。
接触状態。
へ影響する可能性がある。
つまり金型管理も、最終的には機能品質管理になる。
■刃物交換直前まで品質を維持できるか
新品の金型では良好。
しかし摩耗してくると徐々に品質が落ちる。
問題は、どの段階で交換するかである。
完全に不良になってから交換するのでは遅い。
そのため、
バリ。
寸法。
外観。
などの変化を監視し、予防的に交換する。
つまり、量産品質は設備保全ともつながっている。
■量産速度が試作条件を変える
試作では一個ずつゆっくり加工できる。
量産では速度を上げる。
すると、
材料挙動。
粘着挙動。
剥離挙動。
熱。
張力。
が変わる。
つまり量産速度そのものが、新しい工程条件になる。
■速く貼ると粘着挙動が変わることがある
粘着材は粘弾性体である。
ゆっくり貼る場合と、高速で貼る場合では、接触状態が変わることがある。
試作では良好に濡れ広がる。
量産高速貼付では空気が残る。
ということもある。
つまり、同じ材料でも速度によって性能が変わる。
■圧着時間も量産では短くなる
試作では、
数秒押さえる。
ローラーで何度も圧着する。
ことができる。
量産ではタクトがある。
一個に数秒かけられない場合もある。
すると、試作時と同じ圧力でも、接触状態が変わる可能性がある。
つまり圧力だけでなく、圧力×時間を見る必要がある。
■温度・湿度も量産条件になる
材料によっては、
夏。
冬。
梅雨。
で挙動が変わる。
粘着材が柔らかくなる。
フィルム寸法が変わる。
静電気が増える。
剥離力が変わる。
試作室では空調が安定していた。
量産現場では季節差が大きい。
ということもある。
つまり、環境条件も工程設計の一部である。
■保管条件も品質へ影響する
材料を納入直後に使う。
倉庫で数か月保管してから使う。
冷蔵保管する。
常温保管する。
これによって材料状態が変わる場合がある。
特に、
粘着材。
熱硬化材。
吸湿性材料。
では保管条件が重要になる。
量産では、材料入荷から使用までの履歴まで考える必要がある。
■材料の開封後時間も条件になる場合がある
一度開封した材料を、
すぐ使う。
翌日使う。
一週間後に使う。
で状態が変わることがある。
吸湿。
表面汚染。
粘着力変化。
などである。
つまり、量産では「材料品番」だけでなく、材料の状態管理が必要になる。
■作業者が変わる
試作では開発者自身が組み立てる。
材料特性をよく知っている。
しかし量産では、多くの作業者が関わる。
同じ手順書でも、
貼付角度。
圧着力。
剥離速度。
が微妙に違う。
そのため、作業者技能だけに依存する工程は量産でばらつきやすい。
■標準作業にできるかが重要になる
量産では、
誰が作業しても。
どのシフトでも。
同じ品質になる。
必要がある。
そのため、
治具。
位置決め。
貼付順序。
圧着方法。
を標準化する。
つまり、熟練者の技術を工程へ移す必要がある。
■人の感覚を数値へ変える
試作では、
「このくらい押せばよい」
「このくらいの速さで貼る」
という感覚で対応できる。
量産では、
圧力○N。
速度○mm/s。
時間○秒。
位置±○mm。
などへ変える。
つまり、量産成立とは、感覚条件を管理条件へ変換することでもある。
■自動化してもばらつきはゼロにならない
自動機なら完全に同じになる。
そう思いたくなる。
しかし設備にも、
位置精度。
圧力精度。
張力変動。
温度変化。
がある。
つまり自動化はばらつきを減らす手段ではあるが、ゼロにはできない。
必要なのは、自動設備自身のばらつきを含めて工程を設計することである。
■自動機の立ち上げ時と連続運転時で条件が変わる
朝、設備を起動する。
モーターやローラーが冷えている。
数時間動く。
設備温度が上がる。
すると、
張力。
寸法。
粘着挙動。
が少し変わる場合がある。
つまり量産では、立ち上げ直後と安定運転時の差も確認する価値がある。
■量産では設備間差も出る
試作設備は一台。
量産では同じ設備を複数台導入する。
すると、
設備A。
設備B。
設備C。
で微妙に条件が違うことがある。
同じ設定値でも、実際の圧力や位置精度が違う。
つまり複数ライン展開では、設備間再現性も必要になる。
■海外工場へ移管すると条件がさらに変わる
日本で量産成立した。
その後、海外工場へ移管する。
設備。
材料調達先。
温湿度。
作業者。
輸送条件。
が変わる。
すると同じ図面でも品質が変わる場合がある。
つまり、図面を移せば量産条件まで移るわけではない。
■輸送も量産条件の一部である
部材を加工した時点では良品。
しかし顧客へ届いたときに、
反る。
粘着材が変形する。
位置がずれる。
リールが崩れる。
ことがある。
高温。
高湿。
振動。
長時間保管。
が影響する場合がある。
つまり量産品質は、工場出荷時ではなく、顧客が使う瞬間まで維持されて初めて成立する。
■リール部材では輸送後のピッチも重要になる
出荷時にはピッチが合っている。
しかし輸送中にリールが高温になり、キャリアが伸びる。
あるいは巻き圧が変わる。
すると顧客設備でピッチがずれる可能性がある。
つまりリール品は、加工精度だけでなく物流環境も確認する必要がある。
■試作評価条件が実使用条件と違うこともある
例えば熱評価を室温で行った。
実際の製品は80℃環境で使う。
あるいはマイナス20℃でも使う。
試作では水平状態。
実使用では振動する。
試作では新品材料。
実使用では5年間使う。
これでは評価条件が違う。
つまり、試作で性能が出た条件と、顧客が使う条件が同じかを確認する必要がある。
■前編のまとめ:量産とは、変動要因の中で同じ性能を出し続けること
試作では、良い条件を作ることができる。
材料を選ぶ。作業者を選ぶ。ゆっくり貼る。問題があればやり直す。
しかし量産では、それができない。
材料ロットが変わる。
公差が積み重なる。
金型が摩耗する。
速度が上がり、圧着時間は短くなる。
夏と冬で材料挙動が変わる。
保管期間も開封後時間も条件になる。
作業者が変わる。
自動機でさえ、起動直後と連続運転時では違う。
設備が複数台になれば設備間差が出る。
海外へ移管すれば環境ごと変わる。
そして輸送中にも部材は変化する。
試作にはなかった変動要因が、すべて量産には入ってくる。
つまり、
試作は「できるか」を確認する工程であり、
量産は「同じものを作り続けられるか」を証明する工程である。
後編では、その証明の方法を見ていく。
最悪値で見る。設計マージンを持つ。工程能力で管理する。
そして、実際に起きた失敗事例と、加工会社が担える領域。
コラム監修:角本 康司 (オーティス株式会社)
語学留学や商社での企画開発を経て2011年にオーティス株式会社入社。経営企画部を中心に製造・技術部門も兼任し、2018年より代表取締役として事業成長と組織強化に努めている。
※本記事は教育・啓発を目的とした一般的な技術解説であり、特定企業・製品・技術を示すものではありません



